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「一別以来だったな。皆、息災か?」
「はい、皆元気に暮らしています。こちらへは、何時お着きになったのでございますか?」
「うむ、京へは先刻着いたばかりだ。」
「まあ、それはお疲れでしょうに。さあ、どうぞ中へ。」
「いや、せっかくだが、それには及ばぬ。急ぎの旅なのでな。」
「まあ、そうでございますか。」
なみは、残念そうに少し顔を曇らせた。
久綱も言いづらそうに目を伏せ、口早に続ける。
「文にも書いた事だが、どうだ、堺に来ぬか?」
「いえ…」
なみの顔には、ほんの一瞬だけ悲しみの陰がさす。
しかし、再び顔を上げたときには、努めて明るく微笑んでいた。
「此処にて待ちとうございます。」
「しかし…」
「皆で決めたことです。」
「そうか。まあ、強いてとは言わぬが…」
堺に着いた久綱は、尼子家がおかれている状況を手紙にしたためて、なみ達に伝えていたのである。
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