草廬

7/21

242人が本棚に入れています
本棚に追加
/590ページ
「一別以来だったな。皆、息災か?」 「はい、皆元気に暮らしています。こちらへは、何時お着きになったのでございますか?」 「うむ、京へは先刻着いたばかりだ。」 「まあ、それはお疲れでしょうに。さあ、どうぞ中へ。」 「いや、せっかくだが、それには及ばぬ。急ぎの旅なのでな。」 「まあ、そうでございますか。」 なみは、残念そうに少し顔を曇らせた。 久綱も言いづらそうに目を伏せ、口早に続ける。 「文にも書いた事だが、どうだ、堺に来ぬか?」 「いえ…」 なみの顔には、ほんの一瞬だけ悲しみの陰がさす。 しかし、再び顔を上げたときには、努めて明るく微笑んでいた。 「此処にて待ちとうございます。」 「しかし…」 「皆で決めたことです。」 「そうか。まあ、強いてとは言わぬが…」 堺に着いた久綱は、尼子家がおかれている状況を手紙にしたためて、なみ達に伝えていたのである。
/590ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加