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「そうだった。ごめん、ごめん!あんまり柔らかくていい匂いするもんだから、つい」
パッと両手を広げて開放すると、彼女の視線から逃げるようにおどけてみせた。
「馬鹿じゃないの。あんたが言うと変態っぽく聞こえる」
あははと、笑った声はゆっくりと尻すぼみになって、やがて消えた。
埃っぽい冷気が、つんと鼻の奥を刺す。
「ごめんね。……でも、ありがと」
消え入るような声でそう呟けば、「馬鹿ね」と思いの外優しい声が返ってきた。
驚いて思わず視線を彼女に向ければ、初めて見る笑顔がそこにあった。
宇佐美に向けるような愛のこもったものでなければ、満面の笑みとも駆け離れているけれど。
確かに不機嫌そうな猫目をくっと細めて、口元は緩やかに弧を描いている。
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