14263人が本棚に入れています
本棚に追加
/263ページ
ぼんやりと微笑ましい気持ちでその光景を映していると、目に焼き付くような漆黒の髪の持ち主が目に留まった。
相変わらずの仏頂面に、俺の頬はゆるゆると上がっていく。
……あの子だ。
名前も知らない、不機嫌なあの子。
興奮が体の底から這い上がってくるみたいだ。
今すぐ駆け出して、あの折れそうな白い手を取りたい。
そしたら今度こそ、その手を離すことなく、名前を聞くのに。
授業中である事にじれったさを感じながら、体を起こして背筋を伸ばし、頬杖ついた手で緩む口元を覆い隠して、彼女を見つめていた。
……いや、観察していた、と言った方が正しい。
友達と居てもどこか不機嫌そうな彼女は、時々その表情を綻ばせて笑う。
はにかむようなその笑みは大人びて見えるけれど、あどけなさを残していて……
可愛い。
そう思って、心臓が跳ねた。
最初のコメントを投稿しよう!