不機嫌なあの子

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ぼんやりと微笑ましい気持ちでその光景を映していると、目に焼き付くような漆黒の髪の持ち主が目に留まった。 相変わらずの仏頂面に、俺の頬はゆるゆると上がっていく。 ……あの子だ。 名前も知らない、不機嫌なあの子。 興奮が体の底から這い上がってくるみたいだ。 今すぐ駆け出して、あの折れそうな白い手を取りたい。 そしたら今度こそ、その手を離すことなく、名前を聞くのに。 授業中である事にじれったさを感じながら、体を起こして背筋を伸ばし、頬杖ついた手で緩む口元を覆い隠して、彼女を見つめていた。 ……いや、観察していた、と言った方が正しい。 友達と居てもどこか不機嫌そうな彼女は、時々その表情を綻ばせて笑う。 はにかむようなその笑みは大人びて見えるけれど、あどけなさを残していて…… 可愛い。 そう思って、心臓が跳ねた。  
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