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「帰るよ」
「……うん」
さっきまでささくれ立って尖っていた彼女の心が、一瞬にしてまるく解れたのが、手に取るように分かる。
誰も立ち入る事が出来そうにない、2人だけの世界を垣間見て、打ちのめされる。
ついさっきまで触れていたのに、こんなに近い距離なのに、どんなに手を伸ばしたって届かない、ずっと遠くに彼女が見える。
「右京先輩」
ぼんやりとその光景を映していると、こちらを振り向いた宇佐美の呼び掛けられ、ハッと我に返った。
「あんまりからかわないでやって下さい。こいつ、そういうの慣れてないんで」
宇佐美にそう言われると、なんだか余計に面白くない。
別にからかってなんかないし。
本気だしっ!
ゆっくりと唇が尖って、“へ”の字になっていく。
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