恋の痛み

16/45
前へ
/263ページ
次へ
「帰るよ」 「……うん」 さっきまでささくれ立って尖っていた彼女の心が、一瞬にしてまるく解れたのが、手に取るように分かる。 誰も立ち入る事が出来そうにない、2人だけの世界を垣間見て、打ちのめされる。 ついさっきまで触れていたのに、こんなに近い距離なのに、どんなに手を伸ばしたって届かない、ずっと遠くに彼女が見える。 「右京先輩」 ぼんやりとその光景を映していると、こちらを振り向いた宇佐美の呼び掛けられ、ハッと我に返った。 「あんまりからかわないでやって下さい。こいつ、そういうの慣れてないんで」   宇佐美にそう言われると、なんだか余計に面白くない。 別にからかってなんかないし。 本気だしっ!     ゆっくりと唇が尖って、“へ”の字になっていく。  
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14261人が本棚に入れています
本棚に追加