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「……渡瀬さん」
ゆっくりと顔を上げ、まだ戸惑いを揺らしながら俺の頬を掠めた手を片方の手で強く握る、その子の名前を呼んだ。
するとその子は、驚きで目を丸くした顔を勢いよく上げる。
「……ごめん、痛い思いさせたね」
ただ一言そう謝ると、渡瀬さんは何も答えずにただ唇を噛んで、また顔を背けた。
「……なんかカッコイイでしょ、あの子。どうしようもなく、好きなんだよね」
追い掛けるように、小さくなる彼女の後ろ姿に目を向けて呟く。
「真っ直ぐなあの子の目に、俺はきっと歪んで映ってるんだろうなって思ったら……誠実でありたいって思ったんだ」
そしたら、彼女の目に、こんな俺でも真っ直ぐ映るんじゃないかって。
彼女と、向き合えるんじゃないかって。
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