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「……。なんで逃げるのよ?」
不満げに細められた鋭い瞳が、俺を責める。
同じ鋭い瞳の筈なのに、これには全く何も感じないな……と、この期に及んでまた名前も知らないあの子を思い出す。
「いやぁ、なんか取って喰われそうだったから」
あははと笑い飛ばして誤魔化す、お得意の手段ももう通用しないようで、彼女は妖艶に微笑んでその白い手を俺の頬に伸ばした。
「ふふっ、いただきまぁす」
ここまで来たらもう逃げられないかな、と諦めた瞬間。
ぺたぺたと少し間抜けな足音が近付いてきたと思うと、すぐそこでぴたりと止んだ。
今にも俺に食い付きそうな勢いだった女の子も、さすがにその気配に気付いて振り返る。
それに続いて、俺もその正体を探るべく、視界の端に映る上靴から視線を更に上へと這わせた。
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