恋の痛み

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「さっきの、あの場面で……あんたが、真っ先に私の心配をするような馬鹿な男じゃなくて良かった」 みちるちゃんは伏せた目に優しさを湛え、微かに笑って言った。 その言葉が、ふとした仕草が、俺の胸を熱くする。 「右京は……人を責めるよりも先に笑うでしょ。それって、尖った心を丸くするじゃない。でも、私は愛想が無くて逆撫でしちゃうタイプだから……右京のそういう所、憧れるわ」 ふと視線が合えば照れ臭そうに逸らして、不機嫌そうに口元を引き結ぶ。 彼女の不機嫌そうな瞳は、彼女なりの、自分の心を守る術なのかもしれない。 その奥にある愛らしさや幼さや弱さを、隠す為の。 「俺は……みちるちゃんの強さに憧れるな」 そう染々言えば、みちるちゃんの顔付きは今度こそ不機嫌になった。  
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