恋の痛み

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「でも……ありがと」 言い方こそ素っ気ないけれど、表情ははにかんでいて。 いちいち可愛くて仕方ないんですけど。 「俺の方こそありがとう」 にっこりと笑って言えば、みちるちゃんは僅かに肩を竦めて俺の方を一瞥すると、何も言わずにまた顔を背けた。 いつもなら「別にっ」とか言ってつっけんどんな態度を取るくせに、珍しくしおらしくて困ってしまう。 また、抱き締めたくなる。 「……これ、いただきます」 本能のままに動いてしまったらそれだけじゃ済まない事も、その後の展開まで分かりきっているから、煩悩をなんとか振り払って話題をすり替えた。 すっかり冷涼さを失った缶を頬から引き剥がして掲げて見せれば、みちるちゃんはくすりと笑った。  
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