恋の痛み

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プルトップを引き上げるとプシュッと涼しげな音と共に、中の飲み物が泡立って溢れ出てきた。 「わっ!?ちょっ……、何?」 慌てて缶を持つ手を伸ばし、体から遠ざける。 みちるちゃんも驚いて肩を跳ね上げたと思うと、次の瞬間、弾けるように笑い出した。 「さっき、落としたから」 肩を震わせ、笑いを噛み殺しながらみちるちゃんは言う。 まとわりつくジュースにうんざりしながら、固くなっていた彼女の表情が崩れた事に安堵する。 つられて俺も笑った。 だけどその笑いも、徐々に尻すぼみになって、うららかな昼下がりの喧騒の合間を縫うように訪れる静寂に溶けていく。 「……私」 その落ち着くようで落ち着かない静寂を破ったのは、いつになく真剣な表情をしたみちるちゃんだった。  
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