声を聞かせて

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「あれね、ただの八つ当たり。……悪かったわ」   みちるちゃんは俺の胸板をそっと押し返しながら、そう打ち明けた。 なくなっていた距離がゆっくりと広がっていく。 遠ざかる熱を引き留めたいけれど、「もう大丈夫」と訴えかけるまだ歪な彼女の笑顔が、それを許してくれない。 「重ねてたの。右京と、一緒に居る女の子に……宇佐美と自分の姿を。相手の気持ちに気付いてるクセに気付かない振りして、優しくしたり、触れたり……そんなのずるいって」 つい最近の事なのに、まるで幼い頃を思い出すような心持ちで、「あー、馬鹿だったよな」なんて、かつての自分を呆れながら省みる。 それにしても、さっきの言葉は聞き捨てならない。 宇佐美は一体どんな風に彼女に触れたんだろう。 たちまち心はささくれ立つ。  
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