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なんで、こんな陳腐な言葉しか出ないんだろう。
泥濘にはまったその体を引っ張り出してやりたいのに、気休めにもならない。
「簡単に言わないでください」
抑えた声には怒りが滲む。
そりゃそうだ。
ろくに話もした事のない相手に、分かったような口をきかれれば、俺だって腹が立つ。
「そうだね。言うのは簡単だ。……でも、少しでも何か変われば、って思うくらい、いいでしょ」
ゆっくりと立ち上がり、宇佐美に背中を向けたまま続ける。
「清吾も、みちるちゃんも、俺も……やり方こそ違うけど宇佐美の事、心配してるんだよ。まっ、俺は宇佐美の事、全然知らないから、言いたいこと言えるんだろうけど。……可哀想って顔されるのが嫌だって言うなら、踏ん張って立たないと。気を遣わせてたんじゃ、何も変わらないでしょ」
背後の宇佐美の息遣いを気に掛けながら、笑顔を作る。
うん、よし、大丈夫。
笑えている事を確認して、くるりと体を翻した。
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