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「そりゃ、そうよね。私、そんな素振り見せなかったもの。だって……知ってるから」
何をかと、訝しげな表情で問う俺に、視界で揺れる唇は妖艶な三日月に姿を変えた。
「右京は相手が自分に惚れたら、そそくさと逃げるの。必要以上に踏み込まれるのを拒んで、初めから何もなかったみたいに近付こうとしない。女の子の気持ちを弄んだりして……悪い子ね」
そう言ってその人は、まるで子供を愛でるみたいに、俺の頭を撫でる。
心地よい筈の感触も、今となっては煩わしいばかりで。
あぁ、また……
世界は色を失って、モノクロームになっていく。
目の前のその人も霞んで見えて、まるで本の1ページに収まってしまったみたいだ。
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