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「水族館、楽しみにしてる」
体ごと振り返って、ちゃんと俺の方を見て、みちるちゃんは笑った。
声と同じくらい明るくて、弾けるようなその笑顔。
たったそれだけの事だと、人は笑うだろうか。
それでも、宇佐美に向ける、切なさと愁いを帯びたものとも、これまで見てきた少し大人びたものとも違うそれは、俺の心を今まで以上に大きく揺さぶった。
「……っ俺も!」
すっかり見惚れてしまって返事をするのも忘れていた俺は、慌ててそう叫んだ。
するとみちるちゃんは照れ臭そうにはにかんで、ヒラヒラと手を振り、踵を返した。
階段を駆け上がる乾いた音と、騒がしい心臓の音が、ひっそりと静まり返った踊り場に響く。
治まれ、心臓。
次で最後にするんだから。
もう、終わらせるんだから……
だからこれ以上、想いを募らせるわけにはいかないんだ。
今にも飛び出しそうなくらい暴れる心臓に向かって、俺はひたすらそう唱え続けた。
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