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傷付く必要なんてないんだ。
こんな馬鹿で最低な男、と怒りで頭の中から消し去ってしまえばいい。
「ごめんね、ばいばい」
俺は笑顔をひたすら保って、手を振った。
有無を言わせない俺の一方的な振る舞いに怒り狂って踵を返し、走り去っていく、その姿が見えなくなるまで。
「……ふっ」
やっと完全に見えなくなり、滑稽な自分への嘲笑を小さく漏らすと、途端に顔から体から、とにかく一気に力が抜けた。
崩れるように項垂れて、深い溜め息を漏らす。
「……参った」
今にも消え入りそうな声で呟いて、上げた頭を背後の壁に軽く打ち付けてみたけれど、生まれた鈍い痛みは、すぐに冷たい壁が奪っていった。
それは、こんな痛みで済むものか、と俺を叱っているようだった。
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