不機嫌なあの子

18/29

14263人が本棚に入れています
本棚に追加
/263ページ
傷付く必要なんてないんだ。 こんな馬鹿で最低な男、と怒りで頭の中から消し去ってしまえばいい。 「ごめんね、ばいばい」 俺は笑顔をひたすら保って、手を振った。 有無を言わせない俺の一方的な振る舞いに怒り狂って踵を返し、走り去っていく、その姿が見えなくなるまで。 「……ふっ」 やっと完全に見えなくなり、滑稽な自分への嘲笑を小さく漏らすと、途端に顔から体から、とにかく一気に力が抜けた。 崩れるように項垂れて、深い溜め息を漏らす。 「……参った」 今にも消え入りそうな声で呟いて、上げた頭を背後の壁に軽く打ち付けてみたけれど、生まれた鈍い痛みは、すぐに冷たい壁が奪っていった。 それは、こんな痛みで済むものか、と俺を叱っているようだった。  
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14263人が本棚に入れています
本棚に追加