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その晩、俺は熱を出して寝込んでしまった。
理由は簡単。
あの後、雪がちらつき始めた中を、1時間程立ち尽くしていたから。
どうりで、朝から冷え込むはずだ。
なんて、分厚い雪雲から雪がしんしんと降ってくるのを見上げながら、冷静さを取り戻したと思ったら、突然ぼっと沸き上がるような熱に浮かされて。
彼女の言葉を、笑顔を、思い出して、反芻して、ニヤニヤして。
締まりない緩みきった顔を引き結んで、失敗して。
ぼんやりと夢見心地でくしゃみして。
また思い返して嬉しくなって、愛しくなって、叫びたくなって。
冷たい空気を思い切り吸い込んだところで、帰って来た清吾に「何やってんの。馬鹿じゃないの」と一蹴された。
熱を出して寝込むなんて、一体何年振りだろう。
昔は風邪を引くと、父さんも母さんも、清吾も優しくて。
風邪を引きたくて、髪を乾かさずにベランダに出た夜もあった。
今じゃ、両親の間を漂う空気は刺々しくて、清吾は可愛げのないただのドSだ。
あぁ、時間は流れて変わっていくんだなって、少し寂しくなる。
だけど目を閉じれば、笑うみちるちゃんが浮かんで。
じゃあ、俺は全力でこの笑顔を守っていけたらいいって、そう思った。
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