不機嫌な瞳に恋してる。

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  まだ冷たい風を頬に感じながら、慣れ親しんだ校舎を見上げた。 ずっと窮屈に思っていたこの制服を着るのも今日が最後かと思うと、無性に寂しくなる。 「さっみー!」 背後から震える声が上がって振り返れば、縮めた体をひしと抱いて、槙がやって来た。 「右京!もーっ、何やってんの、こんな所で。みんな打ち上げの会場に向かったぜ。俺らも早く行こう」 「ああ……」 槙の丸まった背中を見つめ、一緒にふざけ合った日々を思い出して笑い、後に続いた。 今日は卒業式。 俺たちの胸元には、あまり似合わない淡いピンクの可愛らしい花が揺れている。   本当にこれで最後なのだと、実感が湧き始めた“卒業”に、俺はふと足を止めた。 「槙。悪いけど、先に行ってて。忘れ物」 それだけ言い残すと、弾かれたようにその場から駆け出した。  
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