不機嫌なあの子

22/29

14263人が本棚に入れています
本棚に追加
/263ページ
ドアの隙間からこぼれる光が、薄暗い踊り場に細長く伸びた線を描く。 それは次第に領域を広めていって、ついにはオレンジ色がかった光で一杯になった。 彼女の影をくっきりと残して。 「あ、待っ……」 まるで異世界への入口のような、まばゆい光の向こうへ飛び込んで行く彼女を引き留めようと、立ち上がった俺は小さく声を上げた。 だけど彼女は俺になど見向きもしないで、その光に溶けていく。 追い掛けて足を屋上に踏み入れれば、一度は目を刺すような眩しさに目を細めた。 けれど、徐々に慣れてみれば、なんの変哲もない屋上が広がっているだけだった。 異世界だなんて、ファンタジーな事を一瞬でも考えた自分を笑う。   ギィッとドアが閉まる錆び付いた音が背後でして、失いかけていた目的を思い出し、彼女の姿を探す。 どこか楽しそうに、軽やかなステップを踏んで前を行く彼女の後ろ姿を見つけると、俺の頬は何故か綻んで、足早にその後を追った。  
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14263人が本棚に入れています
本棚に追加