番外編

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「あ、お帰り」 玄関のドアを開けると、美味しそうなカレーの匂いとともに、みちるちゃんが出迎えた。 「ただいま」 こんななんでもないやり取りが、俺を堪らなく幸せな気持ちにさせる。 そして、もうすぐこれが日常になるのだと思うと、堪らない。 ほとんど衝動的に、背後からみちるちゃんを抱き締める。 「ちょっと。邪魔なんだけど」 相変わらず、対応は冷たい。 けれど、決して振り払おうとはしない。 「結婚しようか」 場所とか、雰囲気とか。 一生に一度のことだから、絶対忘れられないようなとびきりの思い出にしようって、いろんな計画をしていたのに。 これじゃ台無しだ。 あぁ、だけど…… カレーの匂いを嗅ぐ度にこの日を思い出すのも、なかなか悪くないかもしれない。 そんなことを思いながら、みちるちゃんが振り返るのを待った。
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