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「……もうっ」
不満げに漏らす彼女の声に怒りは全く含まれておらず、まだ頭に残る彼の温度を小さな白い手で確かめて反芻する彼女の表情は、俺が知ってる不機嫌そうないつものそれではなかった。
幸せを噛み締めるように締まりなく微笑んでいる。
人の心の動きに無頓着な俺でも分かる。
……彼女は、あの男に、恋をしている。
「ねぇ」
その恋する瞳に小さく呼び掛ける。
こっちを向いてと、まるで駄々をこねる子供のような気分だ。
「……何よ」
途端にその目はいつもの、俺の知ってる鋭いものに取って代わった。
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