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何年に何の戦いだとか、並べられる数字や言葉は、眠りに誘う呪文みたいだ。
だんだんと瞼が重くなっていく。
それなのに、堅物社会科教師中村のかすれてやたらでかい声が安眠の妨げとなって、閉じかけた目をこじ開けてくる。
仕方なく、教科書の偉人たちの顔に髭やら髪を書き足して、持て余している退屈を凌ぐのがこの時間の潰し方だ。
そんな作業に没頭していると、窓の外から高らかに響く笛の音がして、密やかにグラウンドに視線を移した。
休憩に入ったらしく、体操着の固まりは一斉に広がって散り散りになった。
その中にいち早く彼女の姿を見つけると、自分の頬がゆるゆると上がっていくのが分かる。
こっちを向けばいいのにと、こっそり念を送っていると、それが通じたのか、彼女はゆっくり顔を上げた。
今にもガッツポーズして叫びたい気持ちを抑え、立てた教科書の影で小さく手を振った。
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