14262人が本棚に入れています
本棚に追加
顔を上げて、薄暗い中に佇むドアを見つめる。
今は俺と彼女を隔てるそのドアも、いつか迎え入れてくれるように開くといいな。
とりあえず、目下の俺の最大かつ最強の敵は、この向こうにいる宇佐美な訳で。
「でも、彼氏じゃないんだもんね」
うっすらと残る希望は、“彼氏”という単語に過剰反応を示して、恥ずかしそうに、だけどどこか嬉しそうに顔を真っ赤に染めていた彼女の目映い程の愛らしさに眩んでしまいそうだけど。
ここですごすごと退散……なんて出来るような聞き分けのいい男じゃないですから。
「まだまだ挫けないもんね」
鋭く細めた目の端に、宣戦布告とばかりに立ちはだかるドアと、更にそのずっと向こうを見据えて言う。
しんと静まり返った辺りから、当然ながら答えが返ってくることはなくて。
目の前のドアは相変わらず冷たくて無表情だったけれど、なんだか心は羽が生えたみたいに軽かった。
最初のコメントを投稿しよう!