特効薬、ください。

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  「“移動教室”ってさー、教室が移動するみたいに聞こえんのに、実際移動すんの俺らで騙された気分だよねぇ」 そんなくだらない槙の不満げな呟きをぼんやりと聞きながら、次の授業がある教室へ向かって渡り廊下を歩く。 差し込む陽の光はぽかぽかと心地よくて、昼食後で満腹の俺の眠気を誘うから、ふわぁと大きな欠伸がこぼれる。 「右京」 それだけじゃ飽き足らず、ぐっと体を伸ばしていると、背後から名前を呼ばれ、立ち止まって肩越しに振り返った。 視界の先には、知り合いかどうかも定かでない女の子が数人。 普段ちゃらんぽらんしているせいか、例え初対面だろうと、遠慮なく呼び捨てにされることは少なくない。 まっ、別に気にしちゃいないけど。 「……何かご用でした?」 とりあえず、にっこりと笑って尋ねる。  
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