不機嫌なあの子

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  あれから数週間。 彼女の記憶も頭の片隅に追いやられ、俺は相も変わらず、持て余しているつまらない日々を、女の子たちと過ごす事で紛らしていた。 ちょっと笑い掛けたら頬を染める女の子は可愛らしくて、魔法使いにでもなった気分になる。 その表情も、纏う空気も途端にカラフルに変わるんだから。 「こら桐島。なにニヤニヤしてる。真面目に聞かんか」 諫める声と共に頭上に教科書が落ちて肩を竦めると、その主を上目遣いで覗き込んで確かめた。 授業中なんだから、その正体を明かさずとも分かるのだけれど。 当然ながら、堅物社会科教師の中村が、すぐ横で仁王立ちしていた。 「いやぁ、先生。僕って本当、いい男だと思いません?」 鈍い痛みが残る頭をさすりながら、悪びれる事もせずおどけて言えば、中村は呆れ返って溜め息を漏らした。 「あー、そうだな。先生が女だったら惚れてたよ」 適当にあしらうように言う中村の、思ってもない告白に、ポッと頬を赤らめてみせる。  
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