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「離しなさいよっ」
動揺を含んだ声が、腕の中でくぐもる。
「うん。でも……もうちょっとだけ」
懇願するように囁けば、彼女は諦めたように肩の力を抜いて大人しくなった。
何か特別な反応を返してくれる訳でもないけれど、2人の間にある沈黙が、ありのままの俺を認めてくれている気がした。
俺の中のやり場のない寂しさや虚しささえ、彼女なりに受け止めてくれているようで。
都合のいい勘違いかもしれないけれど、埃っぽくて冷たい沈黙の中で重なる鼓動と熱は、確かに俺を救ってくれた。
「……ちょっとだけ、でしょ」
どれだけ時間が経ったのか、俺にはほんの数秒のように思えたけれど、とうとう痺れを切らした彼女は身動ぎ始めた。
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