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“彼について知っていること”が、あの夏以来急激に増えていったのは喜ばしいことだった。久世玲。成績優秀、品行方正な彼を巻き込んでのあの出来事が無ければ、おそらく一生知ることはなかったであろう彼の心の闇。それは複雑な家庭環境に起因していると考えて間違いなかった。
久世は養子だった。しかし養父は彼の腹違いの兄であり、実の父親は彼が幼い頃に祖父と慕っていた人物である。だが、真実を聞かされるまで彼は兄夫婦を実の父母、姪にあたる二人の姉妹を実の姉と信じて過ごしてきた。その間、養母や姪は幼い彼に辛くあたった。それは彼が『よそ者』だからというだけではなく、次期当主になる可能性のある『厄介者』であったためである。そもそも母親がいさえすれば少なくともこのような事態にはならなかったはずなのだが、彼の実の母親は彼が物心つく前に行方不明となっていた。
敵だらけの家の中。彼に優しくしてくれるのは現当主である実の父親と彼に仕える四、五人の世話係や古くからいる庭師の老人程度であった。
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