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その父親が倒れた。幸い、ほどなくして容体が安定したため大事には至らなかったが、「心配いらない」と話す彼の表情は硬く、予断を許さない状況が続いていることを物語っていた。あれから一ヶ月半ほどの時が過ぎた。ランニングシューズの紐を結び直し、崎坂硅は彼を想って溜め息をつく。危機を免れたとはいえ、不安でないはずがない。
その時、陸上部部長の小関がパンパンと手を叩いた。
「はーい、ちゅうもーく。こんな時期になんだが新入部員を紹介する」
途端に周囲がざわついた。が、硅は俯いたままだった。部活を辞めた生徒が違う部に入り直すパターンはよくある。夏だろうが秋だろうが入る時は入る。別段珍しいことではない。足元に転がる小石を指で軽く弾きながら久世のことを考えていると、前方で新入部員の歯切れの良い声が聞こえてきた。
「一年一組、百瀬夏月(ももせなつき)です。転校してきたばかりで学校のことだけでなく、この町のこともまだよくわかりません。だから色々と教えて頂けたら嬉しいです。宜しくお願いします!」
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