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一斉にわき上がる拍手の音に硅はハッと顔を上げた。慌てて自分も控えめに手を叩く。
部長の隣で深々と礼をしている一年生。百瀬夏月といったか。どうやら背丈は同じくらいらしい、と頭の中で彼と自分とを比べて思う。だが、体格は細身ではあるものの自分よりしっかりしているようだ。前髪が少し長めの茶髪に、猫を思わせるつり上がった大きな目。その目が、突然硅を捉えた。と同時に口元に笑みが漂う。なんだろう、と硅は訝ったが、その時既に百瀬は部長の声に応えていた。気のせいか。そう思い直して硅はまた視線を手元に戻した。
グラウンドを囲む木々は葉も枯れ落ち、すっかり冬の装いとなっていた。梢瑶祭での騒動は遠い過去に消え、教室は数週間後に迫った期末テストとその後やってくる冬休みの話題でもちきりだ。二年生もそろそろ終わる。成績も出席日数も悪くないので来年の春には三年に進級するが、硅にはあまり実感が湧かなかった。三年が終われば卒業、卒業したら大学……と、ここまで考えて、硅はふと大学卒業後の姿を想像できない自分に気付いた。とりたてて目指したい夢や目標などはない。自分に何ができるのかさえまるで見えない。
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