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報告の際の証拠品にと、宝物庫から持ち出した金塊を一つ背嚢に仕舞うメルの横で、荷物から食料を取り出す。
瓶詰めの酢漬け野菜や果物の蜂蜜漬けと言った保存食と、硬くなった黒麺麭(パン)。それに飽きてしまった干し肉。
此の数日はこんな食事ばかり。今回の仕事が片付いて報酬を得たら、少し街でのんびりしよう。
二人で食べながら、会ってなかった半年間の出来事を話す。主に喋るのはメルの方だけど。退屈しない人生を送ってるみたいだから。
つい最近迄は、北の国境付近で頻発していた異民族間の紛争を鎮圧する為、国が編成した派遣軍に参加していたらしい。
北には複数の少数民族が混在していて、大昔から仲違いしてたみたいだから、国も手を焼いていた。
一応、国から派遣された地方領主は居るけれど、民族間の抗争には口を挟まない条件で――他にも幾つか条約は有るけど――族長達は国に隷属する事を承知したらしいから、小心者の前国王は迂闊に手を出せなかった。
その国王が代替わりして、新王は堪忍袋の緒を御切りになられたみたい。
圧倒的な軍事力の差で、鎮圧は成功。禍根は長く残るだろうけど、王は自身の愛娘である王女達を主な族長達の家に嫁がせる事を条件に、和睦を結んだ。妾腹の姫達ばかりとの事だけれども。
和睦が成立したのは良い事だけど、また傭兵の仕事は減った訳だ。知り合いの傭兵達は皆、傭兵稼業から足を洗って故郷に戻ったり、賞金稼ぎに為ったりしてる。
あたしに、帰る家は無い。賞金稼ぎにでも転身した方が稼げるだろうか……今と変わらない気もするけど。
メルの武勇伝は楽しめたけれど、話が終る頃には少し憂鬱な気分に為っていた。
さっき見付けた財宝を自分の物にでも出来れば、一生お金には困らないだろう。
けれど、そんな馬鹿な真似すれば裏にも顔の利く依頼主に即刻通報されて、有りもしない罪状を捏造された挙げ句、国中の賞金稼ぎに追われる羽目に為る。最期は想像もしたくない。
巧く立ち回らなきゃ生きては行けない。此の国を出ようかと思う時もあるけど、結局は出られない自分が居る。
……忘れる処だった。街でのんびりする前に、寄っておかないと。
何と無く察したのか、食事の礼だと葡萄酒の小瓶を置いた後、メルは足早に古城を去って行った。
多分、依頼主が人手を連れてやって来るのは早くても明朝に為るだろうから、少しだけ貰う事にする。
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