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???「ねぇねぇ。なにブツブツ言ってるのー?」
耳に当てているケータイ電話。通話口からはなにも聞こえてこない。ノイズすらない。完全に無音。
夏の強烈な日差しを受けて。
ぽたりと、俺の顎先から汗が一滴落ち、アスファルトに染みを作った。
???「オカリン?ねぇってばー」
目の前には少女。
首を傾げながら俺に呼びかけてくる。
どう見ても中学生にしか見えないあどけなさの残る顔つきからは、今まさに敵地に潜入しようとしているにもかかわらず、緊張感が微塵も感じられない。
ケータイの通話口を手で押さえてから、俺は、少女に向き直り人差し指を口に添えた。
ちょっと黙れ、のゼスチャー。
???「誰かと電話中?」
頷いてから、改めてケータイを右耳へ。
電話の向こうからはやはり一切の音が聞こえてこなかった。
聞かれてはまずい会話をしているのだから、向こうも気を利かせて黙ったのだろう。
倫太郎「・・・・・いや、こちらの話だ。問題ない、これより会場に潜入する」
相変わらず相手は無言。
報告を聞くだけにしたらしい。
合理的な判断だ。
この場であれこれ雑談するのは危険すぎる。
倫太郎「ああ、ドクター中鉢は抜け駆けをした。たっぷりとその考えについて聞かせてもらうつもりさ・・・・・なに!?“機関”が動き出しているだと!?」
俺は目を見開き、驚いたような声を上げてみた。
少女も、こちらに合わせてビクッっと身をすくませている。
というか、こっちをじっと見てるんじゃない。
俺はすぐに深々とため息をつき、こめかみを指で押さえながら小さく首を降った。
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