理駆と逢氷

7/10
前へ
/83ページ
次へ
逢氷にとっては、それは面白くない。 実は逢氷は、PTSDとパニック障害の併発者なのである。 逢氷は、中学時代に集団レイプを受け、それがトラウマになってしまったのだ。 女子には集団で押さえ付けられ、拘束されたまま未遂で終了。 だが、それから数日経ったある日、あろうことか男子集団にもレイプされたのだ。 しかも、それは未遂で終了ではなく、完璧に最後までされてしまった。 女子の方はまだ耐えれていたが、さすがに男子は身体と心が受け付けなかった。 それから逢氷は自宅に籠るようになり、両親に学校に行くように干渉される日々が続いた。 ある日は、母に泣かれながら。 ある日は、父に殴られながら。 それでも学校に行けない逢氷に両親は心療内科の手配をし、逢氷を連れていった。 でも、病院で受けるカウンセリングでは、逢氷は何も言わなかった。 いや、言えなかったのだ。 集団レイプされたなど、恥ずかしくて言えるわけがない。 これが逢氷の本心だった。 そこで、カウンセリングの先生は『実の成る木』を書いてください、とシャーペンと紙を逢氷に手渡した。 逢氷の書いた木を見て、カウンセリングの先生は「ありがとう」と礼を言った。 逢氷にはお礼を言われる意味が分からなかったが、とりあえず小さく会釈をした。 カウンセリングが終わり、次は診察を受けに行った。 そこで逢氷は、自分がPTSDとパニック障害の合併症だということを伝えられたのだ。 『実の成る木』の絵がそれを証明したらしい。 逢氷は医師の説明など聞く気になれず、ただ聞いたふりをずっとしていた。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

171人が本棚に入れています
本棚に追加