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逢氷にとっては、それは面白くない。
実は逢氷は、PTSDとパニック障害の併発者なのである。
逢氷は、中学時代に集団レイプを受け、それがトラウマになってしまったのだ。
女子には集団で押さえ付けられ、拘束されたまま未遂で終了。
だが、それから数日経ったある日、あろうことか男子集団にもレイプされたのだ。
しかも、それは未遂で終了ではなく、完璧に最後までされてしまった。
女子の方はまだ耐えれていたが、さすがに男子は身体と心が受け付けなかった。
それから逢氷は自宅に籠るようになり、両親に学校に行くように干渉される日々が続いた。
ある日は、母に泣かれながら。
ある日は、父に殴られながら。
それでも学校に行けない逢氷に両親は心療内科の手配をし、逢氷を連れていった。
でも、病院で受けるカウンセリングでは、逢氷は何も言わなかった。
いや、言えなかったのだ。
集団レイプされたなど、恥ずかしくて言えるわけがない。
これが逢氷の本心だった。
そこで、カウンセリングの先生は『実の成る木』を書いてください、とシャーペンと紙を逢氷に手渡した。
逢氷の書いた木を見て、カウンセリングの先生は「ありがとう」と礼を言った。
逢氷にはお礼を言われる意味が分からなかったが、とりあえず小さく会釈をした。
カウンセリングが終わり、次は診察を受けに行った。
そこで逢氷は、自分がPTSDとパニック障害の合併症だということを伝えられたのだ。
『実の成る木』の絵がそれを証明したらしい。
逢氷は医師の説明など聞く気になれず、ただ聞いたふりをずっとしていた。
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