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処方された薬を勘定で受け取った逢氷は、母の車の助手席に乗り込んだ。
母の職業は看護師。
シフトでは夜勤が多い、かなりのハードスケジュールをこなす毎日。
逢氷が病院を訪れた日も母は夜勤だったので、母は逢氷がカウンセリングや診察を受けている間、ずっと夜勤のための仮眠を車の中でしていた。
「…あら、長かったわね」
母は逢氷に欠伸をしながらそう言うと、車のエンジンをかけて車を発進させた。
「で、どうだったの?」
母からの唐突な質問。
母はかなり世間体を気にする類だったから、逢氷はコートのポケットに入った薬や領収書を握りしめながら言った。
「何もなかったよ」と。
「色々迷惑かけてごめんね。
僕、明日から学校行くから」
逢氷の言葉に安心したらしい母は、家まで車の中でずっと笑顔だった。
その日の夜、母は逢氷の好物ばかりを夕食にした。
父にも笑顔で「頑張れよ」、と励ましの言葉を送られ、逢氷は苦笑いで答えた。
その日は逢氷の好物ばかりだったのに、逢氷は箸を進めることが出来なかった。
(…あぁ、…逃げ場なんてない)
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