171人が本棚に入れています
本棚に追加
昇降口に来て初めて分かったが、雨が降っていた。
理駆は生憎傘を持ち合わせておらず、肩をがっくりと落として落胆した。
理駆は溜め息を一つ吐き、鞄を頭の上に被せて走る。
アスファルトの地面からは雨が跳ねる音、靴で雨がびちゃびちゃと返る音がする。
理駆のズボンは膝下まで濡れていて、濃紺の色が更に濃くなっていた。
「…あっ!」
理駆は雨に濡れた地面に滑り、理駆の身体は下方に傾く。
理駆は鞄を持っているので、手を地面につけることは出来ず、ただ転倒を待つだけだった。
――瞬間、理駆の腹部に何かがぶつかる。
それによって支えられた理駆の身体は、上方に向かって持ち直した。
「……大丈夫?」
理駆が顔を上げると、傘に隠れた姿が一つ。
「…逢氷?」
傘から覗くその顔は、少しの雨露を滴らせて、悲哀の表情をしていた。
最初のコメントを投稿しよう!