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理駆は逢氷が分からなくなった。
だが、自分に今までにない危機が迫っていることだけは分かった。
理駆はやっとの思いですくむ足を動かし、階段を降りようとする。
「…何で逃げるのさぁ…!」
どしゅ、と何かが刺される音がした。
同時に呻き声も聞こえてきた。
きっと雅也が再び刺されたのだ。
理駆は階段を不安定な足取りで降り、玄関へ急ぐ。
靴を履かずに、玄関の扉のドアノブに手を掛けた瞬間。
「逃がさないよ」
理駆は逢氷に襟元を掴まれ、後ろに引き摺られた。
逢氷の腕の中に入った理駆は、もう死亡宣告を受けたのと同じだ。
「あ、あぁああ…あ…!」
声にならない声を上げながら、理駆は逢氷をゆっくり見た。
その視線に気付いた逢氷は、顔を歪ませて言う。
「…僕達、もう二度と元の関係には戻れないよね。
……あのさ、理駆。
僕、理駆を自分のものにする前に聞きたいことがあるんだ」
理駆は震えながらそれを聞く。
「…僕に、理駆の最期の声を聞かせて」
それを聞いた瞬間、理駆の身体の震えは止まった。
本当に殺される。理駆はそれを悟り、もう逢氷に抗うことを諦めた。
そして、理駆は逢氷を真っ直ぐ見て言う。
「好きだったよ」
そして、理駆は逢氷の手によって終末を迎えた。
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