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「いいこと、私たちが帰ってくるまでにきちんと掃除しておくのよ。」
意地悪な姉たちと母は、いつものように少女にそう言い放ちました。
「はい。」
と、消え入りそうな声で少女は返事をし、いつものようにその汚い床に膝をつき、せっせと磨きあげていきます。
「あぁ、街の皆は城に行っているっていうのに、私はいつものように灰かぶりのままなのね。」
少女は小さく呟き、気をまぎらわすように掃除に没頭します。
「こんなのあったかしら?」
家の一角にある納戸、本来そこまで掃除をするような部屋でもないけれど、それでもこの部屋にこんなに目立つ物は無かったと少女は首を傾げます。
大きく繊細な装飾が施された全身鏡。
埃を被り、少女の姿さえしっかりと映らない鏡でしたが、少女は何故かその鏡に惹き付けられるような感覚をおぼえました。
少女は徐に膝を折り、その鏡を丁寧に磨きあげていきます。
すっかり綺麗になった鏡は、当然のように少女の姿を映します。
少女が右手を動かせば鏡は左手を動かします。
首を傾げれば鏡も首を傾げ、手を伸ばし鏡に触れれば、手が繋がりました。
『こんにちは。』
灰かぶりの少女の耳にそう届きました。
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