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「ふん…本当にしぶとい子ね…」
半月の光が射し込む寝室。
手元で砕け散った娥の形代(カタシロ)を見て、忌々しそうに呟く術の主。
上品に整った目鼻立ち。あまり日光に当たれない所為か、透き通った白い肌。
踊子(ヨウコ)。
舞姫の姉。頭脳明晰だが猜疑心が強く冷淡。
術を使うどころか、未だに覚醒していない舞姫。
対して毎晩少しずつ、確実に霊力を増していく踊子。
「いつもそう…当たり前のように誰かに護られてて、でも本人は知らない…」
幼い頃から躰が弱く、色んなものに縛られた踊子。
反対に、自由に何処へでも行ける舞姫。
眩しい位に生命力の塊のような妹への、嫉妬が混ざった憎しみ。
不意に、きつく握り締めた拳。食い込む爪。
「踊子? まだ起きているのですか?」
障子越しに良く通る美声。映る細身の影。
「どうぞ? 入って」
「お邪魔しますよ」
静かに入室し、踊子に歩み寄る青年。男ながら、優雅の一言に尽きる立ち居振る舞い。
「由貴さん…」
由貴(ユキ)。
舞姫達を幼少の頃から見知っており、現在は踊子の婚約者。
「君も眠れないのですか?」
「いえ。そんなことは…」
月の満ち欠けに激しく左右されていた精神と身体。成長するにつれ、心身共に安定してきた踊子。
踊子がこの世で、唯一愛した人。
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