修行前夜

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ーーー同時刻 喫茶店『安らぎの風』ーーー カランカラン 「いらっしゃー……あら。美歌ちゃんじゃない」 喫茶店の中に入ってきたのは美歌だった。 「今日は一人?」 「…はい」 いつもと様子が違うことに気づいたのかマスターは少し首をかしげる。 「どうしたの?なんか元気がないようだけど」 「マスターにお願いがあります」 「あら!何かしら?」 「私を弟子にしてください」 美歌がそう言った途端マスターの眉がピクッと動く。 「…そう言うってことは何か理由があるのよね?」 タバコに火をつけて煙を吐くマスターはいつもと違って真剣な顔だった。しかしその中にも笑顔は絶やさずにいる。 「私、優を助けてあげられなかったんです…」 「………」 美歌が喋り出すとマスターは何も言わずただ黙って話を聞いていた。 「私…もう嫌なんです!誰かに守られて…それで…私だけが無傷だなんて…そんなの…嫌なんです…私も優と戦いたい…優を守りたい…」 気がつくと美歌は涙を流していた。 ーーあれ?何で?私…… ーーこんなことまで言ってるの? 「あ…すみません!こんなこと話しちゃって」 タバコを灰皿に押しつぶしたマスターの顔はいつも以上に微笑んでいた。 「風は時には誤った道へと人間を導くわ。でも、自分に素直になった時始めて風は真実へと導いてくれる」 「え…?」 「大切な人の為に戦いその人との道をあなたは選ぶのね?」 「……はい」 美歌の返事には揺るぎない決意があった。 美歌と優が始めて出会ったときの優の決意の様に。 「いいわ!あなたは今日から私のブラザーよ!」 「ブラザー……ですか…弟子じゃなくて?」 「んもう!弟子でもブラザーでも似た様なものでしょ!」 「ならせめてシスターとかにしてください…」 「いいからいいから!それじゃあお祝いにご馳走してあげるわ!」 マスターのご馳走を食べた美歌の顔は笑顔に戻っていた。
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