3人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
ーーー同時刻
喫茶店『安らぎの風』ーーー
カランカラン
「いらっしゃー……あら。美歌ちゃんじゃない」
喫茶店の中に入ってきたのは美歌だった。
「今日は一人?」
「…はい」
いつもと様子が違うことに気づいたのかマスターは少し首をかしげる。
「どうしたの?なんか元気がないようだけど」
「マスターにお願いがあります」
「あら!何かしら?」
「私を弟子にしてください」
美歌がそう言った途端マスターの眉がピクッと動く。
「…そう言うってことは何か理由があるのよね?」
タバコに火をつけて煙を吐くマスターはいつもと違って真剣な顔だった。しかしその中にも笑顔は絶やさずにいる。
「私、優を助けてあげられなかったんです…」
「………」
美歌が喋り出すとマスターは何も言わずただ黙って話を聞いていた。
「私…もう嫌なんです!誰かに守られて…それで…私だけが無傷だなんて…そんなの…嫌なんです…私も優と戦いたい…優を守りたい…」
気がつくと美歌は涙を流していた。
ーーあれ?何で?私……
ーーこんなことまで言ってるの?
「あ…すみません!こんなこと話しちゃって」
タバコを灰皿に押しつぶしたマスターの顔はいつも以上に微笑んでいた。
「風は時には誤った道へと人間を導くわ。でも、自分に素直になった時始めて風は真実へと導いてくれる」
「え…?」
「大切な人の為に戦いその人との道をあなたは選ぶのね?」
「……はい」
美歌の返事には揺るぎない決意があった。
美歌と優が始めて出会ったときの優の決意の様に。
「いいわ!あなたは今日から私のブラザーよ!」
「ブラザー……ですか…弟子じゃなくて?」
「んもう!弟子でもブラザーでも似た様なものでしょ!」
「ならせめてシスターとかにしてください…」
「いいからいいから!それじゃあお祝いにご馳走してあげるわ!」
マスターのご馳走を食べた美歌の顔は笑顔に戻っていた。
最初のコメントを投稿しよう!