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どうやって光葉の機嫌を直そうか必死に頭を捻っていた俺だったけど、意外にも光葉の方から別の話題を話し掛けてくれた。
「……それにしても本当に大輝、強くなったわよね」
まだ少しムスーとしているが、この話題に乗らない手はなかったので俺はスグに返事をした。
「負けちゃったのにか?」
「力量は何も勝敗だけで計られるものじゃないでしょ? それにアタシが見てきた辺り、今までの決闘で団長があそこまで追い込まれた事はなかったわ」
そう返す光葉の言葉には既に不機嫌な様子はなかった。
……確かに、実力っていうものは勝ち負けで決まるものじゃないけど……。
「ねぇ大輝」
少し思考に頭が行っていると、光葉が俺の名前を呼んだ。
顔を上げると、光葉は真剣な眼差しをしながら『提案』をしてきた。
「やっぱりアタシは勿体ないと思うの。アンタが……大輝が『そこ』にいるのは。だから今からでも、『こっち』に来なさいよ。お金の心配なんて……いらないのよ?」
光葉が手を差し伸べる。
この手を受け取れば、俺は彼女の隣に堂々と立っていられるのだろうか。
幼馴染みとは違う関係として……
───けど、
「……悪い。その提案は受け入れられない」
俺はその手は取らなかった。
光葉のせっかくの提案だけど……
これ以上の迷惑はかけたくないから。
「そう……。ま、大輝がそう決めてるなら、しつこく言わないけど……」
光葉は本当に残念そうな表情をした。
その後は何も会話せずに俺たちは互いの目的地に向かって、並んでただ歩いたのだった。
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