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「あ、はい。……けど、今日は無理なんですね」
「うん。絵那、体調崩しちゃって……」
絵那の母親は、そこまで言って止まった。
何かを躊躇うようにも、決意するようにも見えた。
そして少しの空白の後、
「夏騎君には、本当の事を話すわ。絵那に口止めされてるんだけどね」
今までに見た事がない、苦悶の表情をしながら絵那の母親は言ってきた。
その顔を見た俺も、何だか嫌な予感がしていた。
「絵那の病気を治す為の手術は、子供だと負担が大きすぎて駄目だった。だから絵那は、ずっと病院で成長するのを待っていたの」
俺と絵那の母親は、絵那の病室から少し離れた廊下の座席に座っていた。
絵那の母親の言葉を、俺はただ黙って聞いていた。
「その間にも、病気は絵那を侵食していたのよ。……お医者様が言うには、今回の体調崩しはきっと最終警告だって」
最終警告………。
一瞬、その意味は分かりかねたが、俺がその意味を理解すると同時に、絵那の母親が同じ事を言葉にした。
「もう後はなくて、このタイミングを逃すと───後、1週間経たない内に、絵那は死んでしまうって仰ってたわ……」
そんな、非情な事実を受け止めきれなかった俺は、膝の上に置いていた拳を堅く握りしめた。
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