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「手術に失敗すれば即死は免れないそうなの。……だから絵那は苦しくても、近い内に死ぬとわかっていても……確実に少しでも一緒にいたい為に手術を拒んでいるのよ、きっと。──夏騎君の為に」
絵那の母親は、一度間を置いてから俺の名前を強調した。
それを聞いた俺は……
「……バカだ」
ポツリと、そう口にしていた。
そして次の時には、俺は気持ちを吐き出すようにして叫んでいた。
「バカじゃねぇのか、絵那……! 俺が……俺が病気で今にも死にそうなお前を見て、嬉しいなんて思うわけないだろ!?」
それを聞いていた絵那の母親は、安堵したかの様な微笑みを浮かべてきた。
「……良かったわ、夏騎君もそう思っていてくれて」
「………」
俺は、怒りをぶつけるべき相手が違かった事に気付き、絵那の母親の顔が見れずに黙って俯いていた。
けど、絵那の母親がそれを無理矢理上げさせたのだ。
そして、俺の瞳を見て、言ってきた。
「絵那を変えられるのは、夏騎君だけなのよ。……だから、お願い! 絵那に気付かせてあげてっ!」
絵那の母親は言い終えると、面会謝絶のプレートはひっくり返してくれた。
俺だけは通してあげる、という意思表示なんだろう。
そして今まで真面目な表情をしていた絵那の母親は、突然笑顔になって、
「もし絵那を変えることが出来て、手術にも成功したら……絵那の事、好きにして良いわよ♪」
そんな冗談めいた事を言ってきた。
それを聞いた俺は、頬を熱くした事は言うまでもない。
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