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(第三者視点)
移動中の黒塗りベンツの中、富片粧菜は流れる景色を眺めていた。
その隣、彼女の秘書である紺色の女性用スーツを着用した秘書が、膝の上に載せていたタブレット端末に視線を向けていた。
『おい、ババア! どうせこの決闘の模様を見てたんだろ? 賭けはオレの勝ちだ。金輪際、オレに関わってくんじゃねェ!!』
タブレット端末の内蔵スピーカーから、聞き慣れた青年の声が聞こえてくる。
それを聞き終えた秘書はタブレット端末から目を離し、富片粧菜の方へと向いた。
「都市長。御澄宏織が昼矢丈に敗北してしまいました。彼を決闘騎士団に加入させるプランは、失敗です」
「そうですか」
秘書は少し焦った口調だったが、富片粧菜は変わらず冷静だった。
それが秘書には謎だった。
「都市長にはこれも想定の範囲内なのですか?」
そこで富片粧菜はクスリと笑った。
「いいえ。どっちでも良かったんですよ。彼が勝っても、負けても」
一度言葉を切ると、ようやく視線を外の景色から秘書の方へと向いた。
「彼が負ければ、特誕次元獣の所持者がまた一人、私の管理下に入ります」
彼女は特誕次元獣と呼ばれる、ここ数日で決闘中に突如出現する謎のサイキック・クリーチャーを持つ学生を、決闘騎士団というグループに集結させていた。
昼矢丈もその一人だから、メンバーに引きこめれば良し。
「逆に彼が勝った場合、彼自身の心の内にあったトラウマを乗り越えたことになります。それは昼矢丈くんの決闘者としての実力アップに繋がる。来たるべき決戦の日の為に、そちらも大切です」
来たるべき決戦の日。
その表現自体は富片粧菜が何度も口にしてきたが、それが何を指し示すのかは秘書はまだ教えられていなかった。
「そして彼は海堂大輝くんと友の絆を結んでいる。こちらの思惑通りに誘導することは、難しくないでしょう」
説明を終えた彼女は、小さく微笑んだ。
それはさながらゲームを楽しむ少女の無垢な笑みのようだった。
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