語られる過去の棘

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俺たちはほぼ無言でバスを乗り継ぎ、自分の居住区の第12区域へと戻ってきた。 バス停へと降り立つと、光葉だけがすぐに歩き始めた。 「とりあえず、あの店で休みましょ。聖ルチークで結構評判いいとこで、個室もあるわ」 そう言って指し示してきたのは所謂喫茶店だったんだが……何かもう、外観からして本場の紅茶をこだわって作ってますみたいな高級感が前面に出ている。 「う、うん……休みたいのは賛成なんだけど……すごく高そう」 「高そうってか高いよユリっち! 見てよ、このメニュー表! 紅茶一杯で定食大盛り食べれちゃうっ」 小鶴が俺と同じ様に外観で一歩引いていると、怜衣乃が入り口前に置いてあったメニュー本を開いて目を丸くしていた。 聖ルチークはエリート校の中でもあり、金持ちばかりが通うお嬢様学校なんだよな、うん。 感覚がおかしい。 「ま、マジか。俺、今月カード買い過ぎてピンチなんだが……」 値段を想像した夏騎が、バツの悪そうな顔をして言ってきた。 そもそも第4決闘者育成高校の学生じゃ、決闘都市から支給される生活費が全然少ないからな……。 キツいのは夏騎だけではない。 でも光葉は全く表情を変えず、あっけからんと言ってのけた。 「別にお茶とデザート程度、みんな奢るわよ。さ、早く入りましょ」 俺たちには到底無理そうなことを簡単に実行し、光葉は先行して喫茶店のドアをくぐっていった。 「そいやみっちゃんって、お嬢様なんだよねー……」 「私たちとあんまり感覚が違わなかったから、何かスゴいビックリだよぉ」 呆気にとられて黙る夏騎をよそに、怜衣乃と小鶴はむしろ虚ろな瞳になって呟いていた。
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