語られる過去の棘

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「俺の親父はIOとして10年間プロリーグで勝ち続け、その裏……本来の海堂氷薙としては貧しくて子供に娯楽も与えられない地域に支援物資、そしてデュエル・マスターズを与えて、遊び方を教えるっていうボランティア活動をしてたんだ」 親父が家に帰ってくる度に、どこの地域の誰がこんな決闘をしたんだーなんていうお土産話をされたもんだ。 「俺がこの決闘都市で一般校に通ってるのは、この活動に親父が稼ぎのほとんどを使ってたからなんだ。そりゃチャンピオンだからファイトマネーは多額だったのもあって、貧しくはなかった。だから俺もお袋も文句はなかったし、むしろそんな親父を尊敬してたよ」 憧れだった。俺もいつか親父のようになりたいとずっと思っていた。 俺が視線を上にあげて想いに耽った時、怜衣乃が質問をしてきた。 「あのさヒロっち。IOは何で正体不明の決闘者を演じてたの? プロの裏でやってたことだって、すごく褒められることで、わざわざ身を隠す必要なかったと思うんだけどぉ」 「あー……」 案外鋭い指摘に、俺は少し困ってしまった。 そいや、親父が何で謎の仮面決闘者としてプロをやってたのかは知ることがなかったな。 俺が解答を出来ずにいると、光葉の方が怜衣乃に言葉を掛けた。 「大輝の為って、聞いたことがあるわ。チャンピオンの息子だって知られたら嫌でも目立って、過度な期待の目で見られるようになる。氷薙さんはそれを避ける為に正体を隠したんだって」 「親父……そんなこと言ってたのか」 息子の俺ですら知らなかった事実に、少し驚きつつも何だか胸が温かくなった。 俺の為に、面倒な役回りをしてくれてたんだな……。
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