語られる過去の棘

7/18
前へ
/414ページ
次へ
「親父はボランティアで突然消息を絶ってしまった。すぐ警察が捜索をしてはくれたんだけど、いつまで経っても手がかり一つ見つからなかったんだ」 俺がそれを語ると、夏騎が一番の食い付きを見せてきた。 決闘空間で俺の親父のことを知った時も一番に驚いてたし、親父の……IOの大ファンなんだろうな。 「俺も当然ショックだったけど、俺よりもずっとお袋の方が酷かった。警察からの報告を聞く度に元気をなくしてって、1年ほど経つ頃にはもうほとんど寝たきりになっちまった」 お袋が徐々に憔悴してく姿を見るのは辛かった。 それでも待っていればいつかひょっこり親父が帰ってきて、 そうなればお袋も元に戻ってくれるって俺は信じていた。 だから、それまでの間は頑張ろうって思えたんだ。お袋が落ち込んでる姿を見ていたからこそ、俺はまともにいられたんだと思う。 でも── 勝手に俺の脳裏で、その時の映像が再生され始めた……。 ── ─── ──── まだ幼かった頃の俺が帰路に歩き、自分の家が見えてきた。 すると家の前に見知った人物がいるのを発見した。 「椋葉さん?」 それは光葉の母親であり、俺とも長い付き合いのある人だった。 今と同じく和装を着こなす美人だが、表情には結構な焦りが見られた。 でも俺を発見すると、思考を切り替えたかのように笑顔を作った。 「あ……っ、お帰りなさい大輝くん」 「こんにちは、椋葉さん。どうしてウチに居るんですか?」 当時の俺がそう問いかけると、椋葉さんは作った笑顔を一瞬崩して苦しそうに歪めた。 この時は特にそこに着眼しなかったが、今思うと大変だったんだろうな……。
/414ページ

最初のコメントを投稿しよう!

132人が本棚に入れています
本棚に追加