語られる過去の棘

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「あのね、今日大輝くんのお母さん、お出かけしちゃったの。それで今夜は戻ってこないって連絡されて、だから今日はウチにいらっしゃい」 椋葉さんは笑顔を必死で張り付けたような状態で話してくる。 これにはさすがに子供だった俺でも違和感を覚えた。 (お母さん、横になって起きないくらい疲れてるのに……突然お出かけなんてするのかなぁ?) そんな疑問が膨らんで仕方なかったけど、物心つく前からお世話になってる椋葉さんの言うことなので、俺は信じることにした。 そして菜季家に泊まるためには着替えや光葉と遊ぶものとかが必要だと思った当時の俺は、すぐに駆け出した。 「じゃあ準備してくるから、ちょっと待っててください!」 「えっ!? あ、いや、ちょっと待って大輝くんっ!」 横をすり抜けて駆けた俺を、何とか掴まえようと手を伸ばした椋葉さんだけど、すんでの所で間に合わず俺はそのまま家へと戻って行った──戻ってしまった。 ………………。 ガチャリと家の扉を明けた時、俺は顔を歪めた。 普段とは違う、異様な臭いが鼻についたからである。 (あれ、なんか……臭いなあ。何でだろ?) でも嗅いだことのある悪臭……。 この頃の俺は浮かび上がりそうな想像を必死に振り払った。 あくまで変な臭いが漂う程度だったので、俺はそのまま靴を脱いで玄関に上がる。 正直な話、入りたくはなかったけれど、家の中に嫌な臭いがある以上、我慢してでもその原因を取り除くべきだと思ったんだ。
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