語られる過去の棘

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居間へと続く廊下を歩いていく。 進めば進むほど、悪臭は強まっていく。 けれど土足跡や物が散らかってたりもしてない。いつも通りの廊下だ。 だからこそ、漂う悪臭の疑問が強まっていった。 居間に到着したけれど、ここにも変化がない。 そろそろ鼻を摘まみたくなる衝動に襲われて、当時の俺は鼻を押さえた。 「……和室の方だ」 でも臭いを遮断する前に、臭いが強まる方向を把握しておいたので、俺はその方向へと歩みを進めた。 ──ここで引き返して椋葉さんの元へと戻っておけば良かったんだけどな。 和室の一歩手前で、俺はお袋が普段使っているバッグが床に置かれているのを発見した。 出掛ける際はいつも持っていく愛用品だ。 お袋がこれを持たずに外出なんてするのか、とこの時の俺は疑問をより強めた。 バッグがそこにある以上、和室に答えがあるのかと思い、俺は軽い気持ちで和室を除いた。 見えたのはぶら下がった何かと、その真下の畳に落ちているものだった。 床に落ちているものは、正直言って凝視したくない酷いものだった。 悪臭の正体は、やっぱりアレだったんだ。 でも、どうして和室にあるんだろ。 俺はそう思いつつ、向けていた先を床から少し上げる。 するとぶら下がっていたそれがゆっくりと回転した。 それで俺はようやく理解した── ぶら下がっていたのは、舌を伸ばして白目を剥いている……お袋だったんだ。
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