語られる過去の棘

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──── ─── ── そこまで話した段階で、俺は急激に吐き気に襲われた。 あの時のお袋の姿が強烈にフラッシュバックしてしまったからだ。 「うぐっ!」 「大輝、大丈夫!?」 光葉がすぐに背中をさすってくれる。 お陰でトイレに駆け込む程、酷くはならずに済んだ。 一度深く深呼吸をして、完全に吐き気を抑える。 それで何とか話を再開できるほどに回復した。 「……その後のことは全然覚えてないんだ。俺はいつの間にか菜季家の一室のベッドの上にいた」 気を失ってたらしく、俺が目を覚ましたのは3日後だったらしい。 お袋は俺が目撃した頃には既に他界していたようだ。 首吊りってドラマとかで見るものよりずっと凄惨なのだと知った。 一応、お袋の葬儀はその後に執り行われたらしいんだが、俺は出席できる状態じゃなかったから参列はしなかった。 「親父もお袋も親戚がほとんどいなかったらしくて、俺は菜季家に移り住むことになった。でも俺はほとんど明け渡された部屋から出ることはなかった」 俺はそこで軽く光葉の方に視線を向けた。 この頃の俺に関しては、他者の視点の方が説明しやすそうだと思ったからだ。 光葉の方もその意図を理解し、話し始めてくれた。 「そうね。食事の時くらいは顔を見せてくれたけど、それ以外はずっと籠りっきりだったわね。アタシはまた前みたいに決闘して欲しいと思って、デッキを差し出したけど……大輝はデュエル・マスターズを見ると両親の件を思い出しちゃうみたいで、見ようともしなくなったわ」 その頃の情景を思い出したのか、光葉は少し苦しそうに見えた。 ああ、あの時は光葉が渡そうとしたデッキを投げ捨てたりとかもしたからな。 心に余裕がなかったとはいえ、結構酷いことしちゃったな……。
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