132人が本棚に入れています
本棚に追加
(第三者視点)
決闘都市の中心部に建っている、他のどんな建物よりも高いビル。
都市庁、つまりは決闘都市の心臓部の場所である。
そこの最上階にある設備の整った部屋。
『都市長室』と言われている部屋に、富片粧菜はいた。
「……無理に加入させなくて良かったのですか?」
都市長室には、富片の他にもう1人の女性がいた。
フレームのない眼鏡をかけて、紺色の女性用スーツを着たスレンダーな人だ。
年齢は恐らく三十過ぎといった所だろう。
彼女は、富片の秘書として仕えていた。
「こういうものは、自らの意思で入らせる事が肝心なんです」
秘書の質問に、富片は背中を向けたまま答えた。
手にはマグカップ。中には香り良いコーヒーが注がれている。
「ですが、それでは海堂大輝は決闘騎士団に加入しない恐れも───」
「大丈夫ですよ」
富片は秘書の反論を遮った。
富片は敢えて一度、一呼吸ついた後に説明した。
「人は1人では生きられません、「支える人」「支えられる人」が必要不可欠なんですよ。ですから私は敢えて、
彼の『過去』に直接関与していた、菜季光葉が決闘騎士団のメンバーであった事を教えなかったのですから」
富片はそこまで言い終えると、手に持っていたマグカップを口元へと持っていった。
コーヒーを一口啜ると、顔をしかめて、
マグカップを机に置いてから、独りでに呟いた。
「……苦いですね」
最初のコメントを投稿しよう!