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櫂翔は無言のまま私の手を洗っていた。
「…櫂翔?」
「あ?」
「…えっと…怒ってる…?」
「…さぁな。」
櫂翔の冷たい返事にシュンっと落ち込みながら謝った。
「…隠しててゴメン。…皆が心配すると思って……。」
「………………。」
謝る私に櫂翔は返事をしてくれず、ひたすら手を洗っている。
傷事態は擦り傷だが、けっこう強く踏まれていたから赤くなっていた。
ある程度砂が落ちたらしく、手に当たっていた水が止まった。
下を向いていた私はスッと隣から櫂翔が居なくなる気配がして慌てて顔をあげる。
既に櫂翔は歩き出していて、私は置いて行かれていた。
「…やっ!櫂翔待って…」
慌てて声をかけても、櫂翔はスタスタと歩いて行ってしまった。
角を曲がってしまった櫂翔を見て、私は呆然と立ち尽くしてしまった。
今まで櫂翔に置いて行かれた事などないからだ。
「…………。」
櫂翔に置いて行かれたのを感じながら、もう櫂翔が私の隣に戻らない様に思えて涙が溢れてきた。
傷を隠していた私が悪いと解っていても、置いて行かれたのが悲しかった。
暫くすると、また人の気配がしたが、顔をあげる事が出来ずにいると、大好きな人の声がした。
「李遠…。」
「……ふぇ……ゴメン…なさい……。」
「何にたいしてだ?」
「…怪我…黙ってて……」
我慢していた涙が櫂翔の声で溢れてきて、泣きながら謝ると抱き締められた。
「…まったくお前は…。何で隠すんだよ。隠した方が心配になるから、怪我したならすぐに言え。いいな?」
私は櫂翔に抱きつきながら頷いた。
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