「ことだまの、ちから」

2/4
前へ
/66ページ
次へ
平成23年3月11日。 俺はその時、 仕事で車の運転をしていて、 ちょうど信号待ちで停車中でした。 時間的に学校の下校時刻にあたり、 目の前の横断歩道を大勢の小学生が歩いていました。 俺にも同じくらいの年頃の男の子がいるので、 下校中の小学生たちの様子を見ながら、 この日の忙しさを束の間忘れかけた、 そのとき。 俺の視界が揺れてる? いや、車が揺れている? 周りを見渡すと子どもたちは変わらずはしゃいでいる。 信号が青になり、 俺は車を路肩に停めて、 思わず頭に手をやりました。 自分、熱あるんじゃないかと。 揺れた感覚すると、 子どもたちがはしゃいでるのが不思議な感じで、 自分が疲れてるんじゃないか?と思ったんです。 それくらいあの地震は、 俺にとって現実感のない「揺れ」でした。 食事も取らずに、 もう夕方近い時刻。 熱はないな、 と判断した俺は自分に休憩を与える為にコンビニへ。 軽い食事と5分だけと、 ラジオを点けたら何か様子がおかしい。 東北地方で地震があったとのニュースだけど、 そのニュースの内容が尋常じゃない。 アナウンサーは冷静だけど「震度」、「津波」、 そんな言葉が飛び交う。 俺のいる名古屋から、 遠く離れた東北地方で何かとんでもない事が、 今、起きている。 そう感じながらも、 事態の深刻さを把握できたのは帰宅後、その夜のことでした。 その「現実感のない揺れ」の向こうでは、 いくつもの町が、 いくつもの生活が、 海へと還っていったのです。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加