注文その1

13/27
前へ
/1333ページ
次へ
    「人を好きになるのなんて時間は要らない。私は思ったよ? 最初は商売の上で明るく振舞おうとしたけど、こうして話してると、本気で賢治くんの事が好きになってきたの」 どきり、とした。 本気で好きって。 「しょ、商売だったら、そんな簡単に好きって言えるんだ?」 「傷付けるのが嫌だから、彼女を作ろうとしないんでしょ? それは優しさだよ。そういう所が、素敵だと思う」 「しょ、商売なくせに……んっ」 唇に、柔らかい物が触れた。 それは生温かくて、少し湿っていて、同時にレモンのようないい匂いがした。 ……初めてで一瞬のことだったけど、一気に体が脱力して何も考えられなくなった。 「これ以上、何をしたら信じてくれる? 最初の望みどおり、私とつながってもいいよ? でもほら、これだけは感じて」 しいなは俺の手を握ると、その手を開いて自分の心臓の辺りへと動かす。 「好きだから……どきどきしてる。少し恥ずかしかったから。嘘だったら、こんなにどきどきしない」 言ったとおり、しいなの心臓は早くて、俺の心臓の動きと同調した。  
/1333ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23910人が本棚に入れています
本棚に追加